2019年6月13日 木曜日

全てをオープンに

クリエイティブ・コーダー

田所淳

全てをオープンに

クリエイティブ・コーダー
田所淳

このコラムでは、あまり形式ばらずに普段ぼんやり考えていることを書いていきたい。

yoppa.orgというWebサイトをやっている。このWebサイトは主に非常勤講師として教えていた大学の講義資料や、公開で行ったワークショップなどの資料を公開している。現在のyoppa.orgというドメインで開始したのが2009年くらいからなので、開設してから約10年間経過した。

最初は純粋にその講義の履修者やワークショップ参加者のためのもので、オンライン化したのも、単に大量の紙のコピーをとるのも面倒だし、紙資源がもったいないからペーパレス化しようという程度の単純な動機だった。そんなに大勢が閲覧することも無さそうなので、特にそれぞれの大学に公開の許可をとることもなく、軽い気持で始めた活動だった。

しかし、今でこそ同じように講義資料を公開するサイトは増えたものの、10年前はまだ似たようなWebサイトはほとんど存在しなかった。そのせいもあってか、徐々に履修者や参加者以外の閲覧が増えていくようになり、やがて田所淳といえばyoppa.orgというような自分を代表する活動になっていった。

最近では、イベントや勉強会などで「yoppa.orgを読んでましたよ」と声を掛けられるようになった。10年前にyoppa.orgを閲覧していた大学生は、30代の立派なエンジニアになっていたりする人もいる。

当初はあまり深く考えず始めた活動なのだけれど、こうして徐々に外部から認識されるようになると、徐々になぜ自分は資料を公開するのかということを考えるようになった。

大学で非常勤講師を始める前までは、フリーランスに主にWebサイトのデザインやプログラミングをして生計を立てていた。当時はFlashを用いたリッチなコンテンツが全盛期で、派手なFlashサイトが次々と公開されていた。

その中でも個人的にとても印象に残っているWebサイトが、Josua Davis氏によって1998年に公開された “praystation.com” だ。このサイトは主にFlashを用いたデザインのスケッチや技術的な実験を、日記のように日々公開していた。同様なサイトはいくつか存在していたのだが、praystationの特徴はActionScriptのソースコードを公開していたところだ。一つ一つのスケッチのクオリティーはとても素晴しく、さらにほぼ毎日公開されるソースコード付きのデータはとても刺激的で創作意欲を駆きたてるものであった。

当時のFlashクリエイターは、どちらかというとソースコードは非公開で、それぞれが独自の「秘伝のタレ」的な独自のノウハウを保持していた。そうした中で全てをオープンにして表現する姿勢は、とても斬新で強靭さを感じさせるものであった。ソースコードを公開することでJosha DavisによるFlashの表現は多くのフォロワーを生みだし、スタンダードの一つになった。この活動で彼は2001年のArs Electronica Festivalにおいて”Net Vision / Net Excellence”部門のGolden Nicaを受賞している。

これは仮定の話なので実際のところは定かではないが、もしpraystationがソースコードを公開していなければ、ここまでの影響力をFlashシーンに与えることは無かったかもしれない。当時、同じようにFlashの実験的なスケッチを公開するサイトは数多く存在していたのだが、praistationは大量のスケッチがソースコード付きで次々と公開されるという点で異質のものであった。そのため、他のサイトとは一線を画した強度を感じさせる活動だった。

今から振り返ってみると、praystationの活動は、WWWというメディアの黎明期の熱気を引き継いだものだったのかもしれない。ティム・バーナーズ=リーにより世界最初のWebサイトが開設されたのが1991年。praystationの公開はその7年後だ。

WWWというメディアは、そもそもがとてもオープンなもので、世界中の人達が自分自身の情報を積極的に公開し相互に繋がり合い、それによって世界を変えていこうという理想に溢れたものだった。個人や小さな組織でWebサーバーを立ち上げ、テキストエディターでHTMLを直に書いて、技術的な情報から個人的な日記まで、個人が持つ情報をどんどんオープンにしていくことに喜びを見いだしていた。それまでは個人が自分の名前で世界に情報を発信できる手軽なツールが存在していなかったからだ。

WWWの誕生から30年弱経って、様相は大きく変化している。個人の発言の多くはTwitterやFacebookなどのSNSに移行し、匿名による発言や狭いコミュニティー内で閉じた活動が主になってしまった。そのプラットフォームも巨大企業に独占されてしまい、個人サイトの存在はどんどん希薄になってきている。WWWの巨大企業による中央集権化が進行している。

そんな時代だからこそ、もう一度、個人ベースで情報を公開していくことの価値を再発見していきたい。実際に、ティム・バーナーズ=リーはSolidというプロジェクトを開始して、WWWを再び脱中央集権化する試みを始めている。

この先10年は、WWWの脱中央集権化、WWWを再び個人の手に取り戻すということが重要なテーマになってくるのではないかと思う。そうした潮流の一つとして、引き続きyoppa.orgを地道に更新していきたい。